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企業の働き方改革の今を考える:タニタ・電通の「社員個人事業主化」まとめ

「正社員雇用された社員の個人事業主化を支援する」という新たな働き方改革が日本の大企業にじわじわと浸透し始めています。2017年1月の株式会社タニタ(以下、タニタ)の「日本活性化プロジェクト」に始まり、2020年11月11日には大手広告代理店の株式会社電通(以下、電通)も一部社員を個人事業主にさせ、雇用契約から業務委託契約へと切り替える方針であることが日経新聞にて報じられました。

社員を個人事業主にするという各企業の新たな試みに対しては、様々な賛否の意見が寄せられています。本記事では、タニタと電通の「社員個人事業主化」の背景や制度内容、賛否の意見についてまとめた上で、これからの日本の働き方について考えていきます。

働き方改革の先駆者タニタの決断:社員のフリーランス化導入背景や現状・今後の展望

社員の個人事業主化を大々的に取り入れた最初の事例が2017年のタニタによる働き方改革です。2017年の制度導入の背景や企業経営トップの意図、そして現状として現れた効果についてまとめていきます。

タニタの「個人事業主」制度の概要:社員と企業の新たな関係性を求めた社長の決断

2017年1月から始まったタニタの「個人事業主」制度の概要を以下にまとめました。

【対象者】
タニタ本体の社員のうち、希望者のみ。

【制度の流れ】
1 希望者はタニタを退社し、会社との雇用関係を終了する
2 個人事業主としてタニタと「業務委託契約」を結ぶ。

【業務委託契約の内容】
業務内容:
独立直前まで社員として取り組んでいた基本的な仕事が「基本業務」の範囲
基本業務に収まらない仕事を「追加業務」として受注可能
報酬:
社員時代の給与・所与を基準に基本報酬を決定
(社会保険料や通勤交通費、福利厚生費も加味される)
追加業務については、別途の成果報酬が発生する
労働条件:
個人事業主なので、就業時間の縛りや出退勤の時間の制限はない。
タニタ以外の仕事を請け負うことも可能。
契約期間:
3年。毎年契約を結びなおす形式。

【タニタからの支援】
互助会である「タニタ共栄会」を用意。初めて確定申告を行う人などのために税理士法人の支援もある。

上記制度を2017年時点で希望したのは8名であり、全体の平均収入は28.6%上がったといいます。会社側の負担総額は、1.4%の増加。現在は全社員220名のうち26名がこの制度を利用して独立、全員の報酬が社員時代よりも増えているといいます。

タニタの試みは、書籍「タニタの働き方革命」が発売されたことでさらに社会に広く知られるようになり、日本の働き方改革論議に一石を投じることになりました。

社員の個人事業主化を推し進めたタニタの狙い:働き方改革への問題提起と変化に対応する人材戦略

日経ビジネスのタニタ社長・谷田千里氏インタビューにて語られた、社員のフリーランス化を導入した企業側の狙いはまとめると以下の2点に集約されます。

  • より多く働きたい人に対して、報酬面などで報いるため
  • 今後の経営危機を見据え、優秀な人材が兼業で手取りを減らさずに働ける状態にするため

上記の狙いを持った企業の多くは、副業解禁に取り組むケースが多いでしょう。しかし、タニタはさらに一歩踏み込んだ個人事業主化を導入しました。結果として、次のようなメリットがあったと谷田氏は述べています。

「制度の狙い通り、社外からの仕事を請け負ったり、従来、自腹で受けていたスキルアップの講座などを経費扱いにできたりすることが手取りの増加に寄与した」
「(企業側としては)残業が必要になるなどの事情で社員に頼めない業務を、きちんと報酬を提示したうえで個人事業主に頼むことができるようになりました。また、そういう新たな業務は、本当に必要か、第三者に頼んだ方が安いんじゃないかといった仕事の見直しにもつながるのです。仕事の価格の相場観を持つことにもつながります」

引用元:タニタ社長「社員の個人事業主化が本当の働き方改革だ」(日経ビジネス)

タニタの試みに対しては、多くの批判や懸念も寄せられました。

  • 労働基準法を逃れて、社員により多くの業務を背負わせるだけではないか
  • 個人事業主となった社員に受託する業務が減り、最終的に報酬減やリストラになるのではないか

上記の批判や懸念に対しては、タニタはニューススク―ルの記事のように公式に否定しており、より適切な働き方改革を日本社会に提案し、企業と個人の新しい関係性を打ち出す施策であると述べています。

タニタは社員のフリーランス化を今後も進める計画を進めており、2021年春に入社する新入社員については全員が個人事業主になることを前提として採用する方針をとっています。

2021年からの電通の新しい働き方制度:社員230人の個人事業主化の背景と批判

タニタに続いて、2021年1月から電通が社員の個人事業主化を導入するニュースが報じられ、世間を騒がせました。2020年11月11日に公表されたばかりの電通の新しい働き方制度の背景や企業経営トップの意図、そして現在寄せられている批判についてまとめていきます。

電通の「個人事業主」制度の概要:副業禁止からフリーランスとしての兼業へ

電通の提唱する新しい働き方「ライフシフトプラットフォーム」の概要をまとめると以下のようになります。

【対象者】
営業や制作、間接部門など全職種の40代以上の電通社員約2800人を対象に募集。

【制度の流れ】
1 希望者は電通を退社し、会社との雇用関係を終了する
2 電通が11月に設立する新会社「ニューホライズンコレクティブ合同会社」と、個人事業主として「業務委託契約」を結ぶ。

【業務委託契約の内容】
業務内容:
電通社内の複数部署の仕事を担当する
報酬:
固定報酬は電通時代の給与を基に計算
実際の業務で発生した利益に応じたインセンティブも発生
労働条件:
他社と業務委託契約を結べるが、競合他社は禁止。

副業を禁止している電通ですが、ライフシフトプラットフォーム制度を利用して独立すれば、他社での仕事を請け負うことも可能になります。社員の約3%に該当する約230人が制度を利用を希望して独立する予定だと電通は発表しています。

電通の「ライフシフトプラットフォーム」の提唱と寄せられる批判

電通のプレスリリースによると、今回導入した社員の個人事業主化は2018年に有志の社員が立ち上げた構想から2年越しで実現した「安心」と「チャレンジ」の両立を叶える働き方「ライフシフトプラットフォーム」の提案だといいます。

人生100年時代においては、「学業→仕事→老後」の3ステージのうち、「仕事」の部分が長くなると想定されます。(略)ライフシフトプラットフォーム(LSP)は、個人が、”一企業”ではなく”社会”に対して発揮する価値を最大化するための仕組みであり、また同時に、個人・企業・社会が柔軟につながる、これからの時代の新しい関係性を構築していくことを目指しています。

引用元:電通プレスリリース(2020年11月11日)

電通としては、社員の希望に応じて今回の制度を導入し、他社での仕事を通じて得られたアイデアなどから新規事業を創出することを企業の狙いとしているといいます。しかし、労働問題を専門とする弁護士などからは「副業解禁でも対応できる内容」「新しいリストラではないか」といった批判も多数寄せられています。

まとめ:個人事業主になる選択肢を企業側が提示する施策が問うものとは

タニタと電通の新しい働き方制度導入については、いずれも賛否両論です。社員が個人事業主になることを選ぶのではなく、企業側がオファーするようになったということは、より個人のスキル・実績が問われる時代になってきたことを意味しています。タニタで独立した全員の報酬が平均3割上昇していることから考えても、能力がある有能な人材にとっては、堂々と他社でキャリアを活かせるチャンスが巡ってきているといえるからです。

近年、蓄積してきたキャリアや実績を他社の経営計画の実現に活かすプロ人材が人材業界では注目されています。タニタや電通の新しい働き方制度は、プロ人材の活躍を推進する流れであるとも言えます。

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